ZBrush User Interview
SonoSaki 戸田かえで


このインタビューについて
ZBrushで生物・古生物の3DCGを得意とする「戸田かえで」様に作品制作についてお伺いしました。戸田かえで様は2022年10月10日まで開催の東京、上野の国立科学博物館、特別展の化石ハンター展「ゴビ砂漠の恐竜とヒマラヤの超大型獣」のメインビジュアルであるチベットケサイの制作を担当しました。
この度は、インタビューを受けていただきありがとうございます!
まず、始めに自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?
戸田かえで:
はい、ありがとうございます!
生物専門3DCGアーティストと3DCGのこどもから大人までの先生をしております、かえで先生と申します。
本日は宜しくお願いします!
読者の方に、今回紹介する作品についてご紹介ください。

戸田かえで:
今回ご紹介する作品は、2022年の夏に開催している国立科学博物館、特別展の、化石ハンター展のメインビジュアルを担当させてもらい、そのメインビジュアルのチベットケサイをご紹介します!
今回担当した内容として【骨格標本のブループリント】【復元標本の原型モデル】
【フル3DCG生態復元映像】【監修入りオリジナルグッズ】の4つ分野を担当させて頂きました。
化石ハンター展の総合監修者の木村由莉先生が監修に入って作った、学術的に証明できる古生物の復元3Dになります。
別名だと、”サイエンティフィック・イラストレーション”や、”Paleoart”とも呼ばれる分野です。
骨格標本のブループリントは、本来骨格標本を組み上げる時は、2Dの図面を見ながら組み上げるのが普通なんですけど、今回は世界初という事もあり、チベットケサイの研究者である中国のデン・タオ博士に骨格標本ポーズの監修に入って頂きました。
その為にZBrushで作ったチベットケサイの骨格CGを三次元で見てもらい、学術的に問題ないポーズか判断をしてもらいました。

戸田かえで:
復元標本の原型モデルは、ZBrushでSphereから作っていきました。
SnakeHookで大まかに形を変えていき、最初はダイナメッシュも64などの解像度から始めて、サイ本来の形を作っていきます。
ただ今回はベースの骨格モデルも作っていたので、透明とゴースト機能を使って骨格に沿うように作っていきました。

戸田かえで:
ある程度ベースの形が出来たら、木村先生にチベットケサイの形に問題が無いか確認をして最終のディティールにいきます。
ディティールは現生のシロサイをベースにして作っていき、最初は無かったのですが、途中で子供も作る事になり、追加していきました。

戸田かえで:
親子共に何パターンかポーズ案を出して、特に子供はどうやったら愛らしくなるか木村先生と一緒に色々なポーズを見て案出しをしていきました。

戸田かえで:
フル3DCG生態復元映像は、ZBrushで原型モデル用で作った3DモデルをZRemesherでリトポロジーを行い、ある程度アニメーションが付けれるポリゴンまで減らして他ポリゴン編集ソフトに持っていきました。
チベットケサイの最大の特徴である毛は、ラフ案でイメージを共有する為にZBrushのファイバーメッシュを使いました。

戸田かえで:
その後毛の質感や色、くせ毛などを現生種の様々な動物を参考にしてトライアンドエラーしながら作っていきました。

物販の方では、チベットケサイの頭骨モデルとシルバーネックレスを、ZBrushで作ったデータを元に作りました。
頭骨モデルはフルカラー3Dプリンター出力をしているので、ZBrush上でポリペイントの着色をして、出力した物を販売しています。

戸田かえで:
木村先生の監修も入っているので、学術的に証明ができる標本フィギュアです。
他にもTシャツやトートバッグなど、私のCGで作った物販コーナーがありますので、会場に来た際には見てみてください♪

読者の方に、もしよろしければ作品数点を紹介いただけますか?
戸田かえで:
カンブリアモンスターと呼ばれるカンブリア紀に居た生物達を作りました!
こちらは最終的に、レンダリング画像と3Dプリンター出力をしています。

戸田かえで:
新第三紀中新世の恐鳥のケレンケンと、食べられている、プロティポテリウムを作りました。
こちらは、ZBrushでポリペイントをしてミマキエンジニアリングさんでサンプル品としてフルカラー3Dプリントをしています。



いつから生物・古生物などを中心に制作するようになったのでしょうか。
戸田かえで:
初めからクリーチャーを含めた、生物や古生物をメインで制作していました。
CGを始めたきっかけが、ゲームエンジンに入っている恐竜アセットがきっかけだったので、それ以外を作ろうという気持ちがなかったです。(笑)
生物・古生物を制作する上で注意して再現している点などはありますか?
戸田かえで:
兎に角学術に基づいた、リアルな物を作りたい想いが強いので、古生物の場合は、系統樹を見てみて、現生種のどの種と近縁なのかを確認して、リファレンスを沢山集めます。
あとは最新の論文を読んで、論文に記載されている内容になるべく近づけるようにしています。
ただ、論文は全て英語で、私は全く英語が分からないので、Google翻訳さんに全て一任しています!(笑)
他にも、生物を制作する上で必要になるスキルとして、骨格やアナトミーの勉強をしています。実際に動物の解剖や、動物のご遺体から骨格標本作りをしてみて、構造を勉強していて、そのスキルをCGで再現出来るようにしています。お陰様で部屋には、骨格標本や動物の体の一部分、自分でなめした革などがどんどん増えてきて、旦那さんに文句を言われているので、別でお部屋が欲しいなぁと思ってます。(笑)
子供向けの教室を開催していますが、子供たちに人気な生物・古生物などはいますか?
戸田かえで:
やっぱり人気な生物だと、パンダやペンギン、古生物だと、ティラノサウルスやトリケラトプスが人気ですね!でも、私が古生物好きと知って、教室に通っているこどもたちもいて、その子たちは私以上に古生物や生物を知っていて、めちゃくちゃマニアックな子もいます。
古生物でも、マニアックな、オドベノケトプスやイクチオステガ、その他沢山… 植物をテーマに作ってもらった時に、モンキーオーキッドやタビビトノキと言われたときは、私は頭の上にハテナが出ました。(笑)

子供向けの教室を開くきっかけはなんでしょうか?
戸田かえで:
元々、私はZBrushをきっかけに自分の人生が180度変わって、今は凄く楽しい日々を過ごしていて、ただ、私もZBrushやCGに出会ったのが25歳くらいでした。
多分、もっと若いころ、それこそ10代やこどもの頃にそのことを知っていたら、もっと楽しい人生を送っていたんじゃないか。というのが最初のきっかけで、ZBrushは特に直感的で子供でも楽しく作れるソフトだと思って子供向けに始めてみました。
子供たちの将来の夢の選択肢を、どんどん広げて欲しいと思っています。
あとは、教室を開く上で色々と調べた所、海外先進国と日本の教育格差が広く。
特に3D教育が日本はかなり遅れている為、少しでもこの3D教育を進めて行きたいと思って、教室を開校しました。

のぶほっぷこと、福井信明先生から受けた影響などはどのようなものがありましたか?
戸田かえで:
福井先生には凄くお世話になって、特にZBrushは楽しい!CGは楽しい!未経験でも楽しく出来るんだ!という福井先生の想いによって私も楽しく出来ました。
福井先生の構想で、CGの学校を作りたいという話も聞いており、微力ながら私も福井先生の意思を継いで行きたいと思い、子供向けの教室も福井先生の想いを受けています。
国立科学博物館での展示を2022年9月現在、行っておりますがどのようなきっかけで展示に参加することになったのでしょうか?
戸田かえで:
1年前にお話を受けたんですが、その半年より少し前くらいに化石ハンター展の総合監修者の木村由莉先生が出演していたオンラインイベントがあったんですけど、そのオンラインイベントに私は普通の視聴者側で参加をしていて、古生物学者って女性が少ない業界なんですけど、その中で頑張っている木村先生に感銘を受け、オンラインイベントの後に直接連絡をしたんですよ。
その時には、スミロドンの骨格CGや他の古生物も作っていたので、木村先生に、私こんなもの作ってるんです―――!!ってアピールメールをダメ元で送ったら、返信がきたんです。
しかも添削もしてもらって、古生物の研究をしている博士から直接添削ってめちゃくちゃ嬉しくて、色々質問などを続けていたら、今回のプロジェクトにお声がけ頂いて、私自身が一番びっくりしていました。
木村先生も、私のCGの経験が少ない事も知っていたのですが、私のバイタリティや信念を買ってくれて、請負で作るとかではなく、一緒に展示を作り上げるメンバーとしてプロジェクトに迎え入れてくれました。
ZBrushでよく使う機能などはありますか?
おすすめの機能などはありますか?
戸田かえで:
ZBrushでよく使うとしたら、あるあるだと思いますが、 DynameshやDivideは当たり前のようによく使っています。
仕事柄、どちらかというと最終的なアウトプットが立体造形の方が多い為、サイズを測る為に、トランスポーズ単位の測定基準補正の機能を使って、サイズの確認をしています。

あと、骨などを作るとパーツが多くなってしまう為に、サブツールのフォルダ機能を使って、何処のパーツなのかを管理しています。
このフォルダ機能が無かったら、大変な事になってしまうので、凄く重宝しています。
ざっくり共有をする為のビジュアルとして、ポリペイントもすぐに色付けが出来るのでオススメです。
ストロークもcolorized sprayでストロークのモディファイアを変えたりすると、簡単に深みのある色が塗れるので、色塗りが苦手な私でもすぐに出来てテンション上がります!
参考にしている書籍や、アーティスト、サイトなどはありますか?
戸田かえで:
書籍は【エレンベルガーの動物解剖学】やテリル・ウィットラッチさんの【幻獣デザインのための動物解剖学】は常に見ていて、参考は勿論、見ているとモチベーションが上がるので、スランプになった時は特に見ています。
あとは、古生物を現生種のようにリアルに感じてほしく、リアリティがある描写を参考にする為に、生物の狩りシーンだけを集めたインスタグラムや、アフリカや海外の山や川、動物園に設置されているライブカメラを付けて観察しています。
アフリカのライブカメラは特に面白くて、オリックスやインパラがカメラの近くに居たりすると、反芻が見えるほどカメラの性能が高いので何時間も見ちゃいます。
好みのブラシはありますか?もしよろしければ好きなブラシTOP5をお聞かせください。
戸田かえで:
凄いベタかもしれませんが
1位 ClayBuildup
2位 Smooth
3位 SnakeHook
4位 DamStandard
5位 Move
あとここに入るか分かりませんが、VDMも使います。
将来的にこれは作りたいと思う作品や生物などはありますか?
戸田かえで:
将来の夢が、生存競争の観察が出来る地質時代を再現したいので、カンブリア紀~新生代第四紀までの生物を全て作りたいです。笑
そして、モーションも組み込んで、AIも組み込んで、私が作った地質時代で自由に生きてほしい!
戸田様の思う古生物の魅力とは何でしょう?
戸田かえで:
古生物も、特に化石哺乳類という、いわゆる絶滅動物が特に好きなのですが、現生種が居たりするので、想像しやすい所に魅力を感じています。
実際に化石があるという事は、元々そういう生物がいた事は確かなので、そこから化石の骨を元に、何処に住んでどういう生活をしているかによって、こういう体になる。
こうだからもしかしたらこういう毛かも、こういう色かもしれないって、100%のクリーチャーと違い、半分本物、半分想像の生物になる所が魅力です。
普段からやっている事ですが、例えば今回の化石ハンター展のチベットケサイも、今生きているサイを動物園で見る事が出来るので、実際に見ながら、チベットケサイの要素を重ね合わせて想像するのが楽しいですね。
もし、最近ZBrushを始めたばかりの方にアドバイスをできるとしたらどのようなアドバイスしますか?
戸田かえで:
ZBrushは直感的なので、とにかく好きな物をスカルプトしていく事をオススメします!
特に最初はSculptrisPro機能で、自由にスカルプトが良いですね。
沢山の機能を勉強しようと意気込むよりも、もっとラフに好きな物を好きなように作り、必要なタイミングで新しい機能を学んで行けば、かえで先生の経験上、小学1年生からZBrushが出来ます!
お答えいただきありがとうございました。最後にご自身の宣伝などをどうぞ!
戸田かえで:
こちらこそ、ありがとうございましたー!!
とっても楽しかったです!
宣伝は、ZBrushをメインに、子供から3D教育を学べる【みらいのおねんど教室】と

化石ハンター展のメインビジュアル、世界初チベットケサイ復元の舞台裏に迫る【化石の復元、承ります。】の本です。
私も第2章で出演させて頂いてて、クリエイターとしての想いなんかも書いてあります。
古生物が好きな人は勿論ですが、CGクリエイターや、特殊造形をしている方々にも絶賛を頂いているので、是非お手に取ってみてください♪全国の書店で販売してます!

あ、あと来年に自前ブランド【MapleBio】というジュエリーブランドの販売を開始しようと思っていますので、開始したらご覧ください♪
そして、これを見ている皆さん、ZBrushは本当に楽しいので、触ってみてください!
フリーソフトのZBrushCoreMiniもあるので誰でも出来ますよー!!
ありがとうございましたーー!
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