ZBrush User Interview
Wonderful Works 「榊馨」 case
コトブキヤ アイドルマスター シンデレラガールズ 島村卯月 パーティタイム・ゴールド

このインタビューについて
今回インタビューを行わせていただきますのは、ZBrushでフィギュアを製作している方のバイブルとなっている「ZBrushフィギュア制作の教科書」の著者で、SKブラシなどの有名なカスタムブラシの作者でもあるフィギュア原型師の榊馨様です!
Pixologicでは公式配信であるZBrushLiveなどを担当されており、弊社でも大変お世話になっているデジタルフィギュア界の巨匠です。
今回はコトブキヤ様より発売されるフィギュアの製作を榊様が担当しているということで、詳細をお伺いしてみたいと思います!
今回のフィギュアは、オリジナルポーズ・スタイルでの製作ですか?
それとも、元絵となるようなイラストや、3Dデータを元に製作を行いましたか?
榊馨: 今回はCDジャケットが元イラストでした。
基本的にイラストに合わせつつ身体の流れや全体のバランスは立体的に見栄えが良くなるように調整しています。

ポーズ付けやスタイル調整の大まかなワークフローの解説をお願いいたします。過去にWebにて公開されている手法のように、マネキンから作成を行っておりますか、それとも、ZSphereを元に作成を行うような方法でしょうか?
榊馨: 他のフィギュアを作る場合と同様にマネキンでポーズを検討し、それに合わせてベースとなる身体をTranspose(トランスポーズ)で変形してポーズをとらせています。その上に服、髪の毛を作っていきました。
今回の製作で用いられたZBrushのTipsはございますか?
榊馨: 今回は衣装のスパンコールにNanoMesh(ナノメッシュ)を使用して円柱を配置しています。
(※NanoMeshとは1ポリゴンごとにパーツの配置を行い、反復する模様等に便利なツールです。)
赤色の所がNanoMeshを使用しているところです。NanoMeshできれいに並びきれないところはInsertMeshブラシで円柱を配置しました(青色部分)。
メリットとしては円柱の位置を微調整するときにMoveブラシを使ってもNanoMeshに設定された円柱は形を崩さないことです。
InsertMeshブラシで配置すると円柱の位置調整にマスクなどを使って1つの円柱を選択して動かさないといけないですが、NanoMeshならベースとなるメッシュをMoveブラシで動かすことで位置調整ができるので楽です。
またNanoMeshのベースメッシュをProjectAll(全て投影)すればジャケットの形状に瞬時に沿うことができるので位置調整中に埋もれてしまった円柱を並べ直すのも楽です。
コトブキヤ様との打ち合わせや、進捗確認はどのタイミングで行いましたか?
榊馨: 開始前に打ち合わせをしてフィギュアの仕様を確認します。
元イラストやサイズの確認、付け替えや着脱できるパーツの有無、ディテールに関しての作り方の確認をします。
この段階で分割についても大まかな指示がありましたが、必ず事前に指定されるわけではなく、おまかせされる場合もあります。
その後ある程度パーツを揃えたラフモデルの段階で最初の進捗確認を行い、ポーズやバランスについて修正を行いつつパーツの作り込みをします。
ひと通り作り込んだら再度進捗確認をします。3Dプリント(仮出力)を行って現物で形状を確認しつつ仕様に沿って作られているかもチェックします。
修正指示をいただき何度か細かいやり取りをした後、版元様の監修を通して完成となります。
原型製作を担当したフィギュアの塗装について、フィニッシャー(彩色担当)と注意点やポイントなどの打ち合わせを行うことはありますか?
榊馨: 原型製作のみお請けしている場合彩色担当(フィニッシャー)の方と直接やり取りをすることはありません。
塗装の際の注意点は原型製作時にメーカーの担当者の方に指示をいただきます。
デジタルでの原型製作(ZBrushでのモデリング~分割作業まで)を行うのにどの程度の日数がかかりましたか?
榊馨: 製作期間は6月中旬スタート10月初旬完成の約3か月です。
進捗確認や3Dプリント(仮出力)の待ち時間なども含めた期間で、データを製作していた実数は29日間でした。
商業原型の製作では、実際の金型で量産されることを前提にパーツの分割が行われると思うのですが、どの段階で検討を行いますか?
また、原型担当者がどの程度まで考慮しますか?
榊馨: ポーズを付けた後にパーツを追加していく段階で分割を検討しながら作っています。
今回は分割について指定されていたのでそれに合うように作りました。
ただ最初から完全に分割された状態で製作すると作りにくいパーツもあるのでそれについては後で分割することを想定して製作しています。
また量産できるかは金型の専門家ではない自分にはわからないところがありますので、ゴム型で複製できるところを維持しつつ形の良さを優先して製作しています。
金型で量産できない形状は途中の進捗確認の段階で指摘をいただき随時修正しました。
デジタルでフィギュアの製作を行う場合、画面内のモデルだけではなく実物を確認する事も重要だと思います。
榊様も複数の3Dプリンタを事務所に所有されていますが、どこに重点を置いて確認を行っていますか?
榊馨: 一つは全体的なバランスです。
中心から離れるほど画角の歪みが大きくなりますがCG上と肉眼で見たときで大事な所が外れていないかチェックします。
今回の卯月であれば両手の幅に対して髪の毛の広がり具合のバランスなどを見ています。
次に左右の手足の大きさ、太さのバランスです。
意外に思われるかもしれませんが左右対称が得意のCGで作っているのに手の左右の大きさがまるで違うといったこともよくあります。
指の動きを変えている際にスケール感が変わっていることに気づきにくいです。
足の太さや体の歪みなども肉眼で見ればすぐ気付くのですがCG上ではわかりにくいところです。
また奥行き感もチェックします。
CG上で左右の広がりは確認できますが髪の毛が後ろに流れている場合の奥行き感などは把握しにくいです。
薄っぺらになりがちなので現物で左右だけでなく奥にもバランス良く広がっているか確認します。
顔の上下の向きと前髪の影もチェックします。
CGでは正面から見て製作している時間が多いので顔を下向きにしてもよく見えますが、実物のフィギュアは俯瞰で見る場合が多いのでCGでの印象より顔が見えない場合があります。
また前髪の影もZBrushのビューポートやKeyshotの影とはぜんぜん違うので暗い印象になっていないか確認します。
今回作成を行ったアイドルマスター シンデレラガールズの島村卯月というキャラクターの製作を行う上で、特に意識をした/気を付けたデザイン、キャラクターの性格、特徴、仕草などはありましたか?
榊馨: ウェーブの髪の毛は単調にならないよう気をつけました。卯月は笑顔が特に強調されていたのでその点可愛くなるように力を入れました。
製作を行う上でキャラクターに関する下調べを行うと思いますが、どういった調査を行いますか?
榊馨: 原作を当たってキャラクター性を掴むようにしています。
時間の都合でなかなか原作全てを調べることは出来ないのですがライトノベルであれば2巻目くらいまでは読んで、アニメであれば1クール以上を視聴するようにはしています。
最近のアプリゲームは時間をかけても目的のキャラクターを手に入れられないのでそこが辛いところです。
またファンアートもたくさん集めてファンがキャラクターにどういうイメージを抱いているか把握するのも重要だと思います。
もしゲームやアニメをその過程で体験していた場合、どの島村卯月が印象に残っていますか?
榊馨: アニメアイドルマスターシンデレラガールズ24話S(mile)ING!のクライマックスです。
2016年にZBrushCoreが発売され、日本ではZBrushCoreを導入したユーザーが沢山おります。そんな彼らに榊様もご使用の”ZBrush”のここが良いぞ!という点を教えてください。
榊馨: フル版のいいところはカスタムブラシが使えるところです。ZBrushの使い始めは、ぐねぐねしたものしか作れなくてストレスになると思いますが自分は自分にあったブラシを作ることで思った通りにスカルプトができるようになりました。
初心者がカスタムブラシを作成する際におすすめとなるような参考記事などはございますか?
榊馨: 参考になる記事は思い当たらなくて、自分はLightBoxに入っているブラシの設定の違いを一個一個比べて効果を調べていきました。自分がよく編集する設定は拙著「ZBrushフィギュア制作の教科書」P360 にまとめていますので参考にしてください。
好きなブラシ5つ挙げるとしたら何でしょうか?
榊馨: エッジを出すのに便利なsm_Creaseブラシ。
盛り上げスカルプトが楽しいClayBuildupブラシ。
色々と応用が効くCurveBridgeブラシ。
手前味噌ですがStandardブラシ代わりのSK_Clothブラシ。
これも自作のものですが強力なスムース代わりに使うSK_ClayFillブラシです。
お好みのマテリアルとその理由を教えてください。
榊馨: カスタムマットキャップのzbro_Mudです。デフォルトのRed Waxは暗くて凹凸が見えすぎて必要以上にスムースに時間を取られたり他のマテリアルは見た目良くても凹凸が見えにくかったりしますがこれは見た目の良さと凹凸の見やすさのバランスがいいです。
ZBrushでフィギュアの製作を行う際、アナログ原型に近い複数のブラシを用いて作成を行うことを意識していますか?それとも、ZBrushで扱うことができるZModeler、ArrayMesh(アレイメッシュ)などを積極的に使うように心がけていますか?
(※ArrayMeshは物体の反復するような配列を作成するツールです。また、ZModelerは簡易なポリゴン操作を行うことが出来るモデリングツールです。)
榊馨: 自分は多くのブラシ、ZModeler、ArrayMeshなどの機能どちらも積極的に使って効率的に作ることを意識しています。
デジタル原型を製作している方がよく画角の設定に悩むとのことですが、榊様はどのような画角設定にしておりますか?
榊馨: 1/8~1/7スケールのフィギュアであればAngle Of View(画角)の数値は26にしています。これはKeyshotで100mmのカメラ設定とだいたい同じ見え方になる数値です。
CG上と肉眼、写真でそれぞれ見え方違いますが写真で見られる場合が最も多いと思いますので写真で撮ったときに一番良く見えるようにデータも調整しています。
ZBrush4R8から新機能の1つとしてLive Boolean(ライブブーリアン)が追加されました。3Dプリントや原型製作を行う上でどのような変化がありましたか?
(※ブーリアンとは、形状の和/差/積の演算を行う機能のことです。ライブブーリアンはそれらをリアルタイムで演算を行うことができます。)
榊馨: フィギュア作りをする上では厚みを確保して実物の形状を保つように作ることが必須なのですが今まではDynaMesh(ダイナメッシュ)ブーリアンをしてパーツ同士の干渉部分の厚さをチェック、ブーリアン前に戻って干渉部分を変更、再度ブーリアンというサイクルを繰り替えて調整するためとても大変でした。
LiveBoolean(ライブブーリアン)はブーリアン後のプレビューを見ながら干渉部分の編集ができるため厚さの調整がとてもやりやすくなりました。
最近個人的にこれは「hot!」だと思う内容などはございますか?
榊馨: 最近のZBrushTipsで自分の中でホットなのはViewMask(ツール>マスキング>マスク表示)をオフにして編集です。マスクして盛り上げたり削ったりという作業を頻繁に行いますがマスクの色が邪魔して加減がわかりにくいときがあって今まではマスク解除してからやり直しということがありました。ViewMask(マスク表示)オフにしながら作業することでやり直しが減りました。良く見えるようにデータも調整しています。
榊馨様はZBrushのカスタムブラシが有名ですが、新作のブラシなどの公開予定などはありますか?また、書籍などが非常に好評だったと思うのですが、2冊目の書籍の制作予定などはありますか?
榊馨: 昔からフリルIMMブラシ作りたいと思っていて何度か挑戦しているので満足行くできになったら公開したいです。
書籍についてはR6で作った内容なのでZModelerブラシやLive Booleanなどが無く情報が古くなってきたと感じているので新しい情報に書き直したい気持ちはあります。ただ前回はキャラクターデザインからフィギュアの製作に1年、本の執筆に1年で合計2年かかっていてとてもとても大変だったのでなかなか作る時間が取れないのが実情です。
長時間に渡るインタビューありがとうございました。
榊馨: ありがとうございました。
島村卯月 パーティタイム・ゴールドのメーカー受注締切は2月22日(木)となっております。皆様ぜひこちらから予約をお忘れなく!
榊馨様のZBrush書籍
榊馨さんは、ZBrushでフィギュア製作を行うことに関する最も詳細な内容を記した書籍を執筆を行いました。この書籍では、キャラクター製作や、それらの装飾品、モデルの服装に関してもカバーしています。
Zスフィアを利用した骨格の作成や、上級者ならではのコツなども多く含まれており、フィギュア製作に関しての知識を学ぶことができるとともに、ZBrushの秘密に関して深く迫っています。
ZBrushLive 配信
榊馨さんは、彼のフィギュア製作のスキルを各月ごとにZBrushLiveにて公開しております。Twitchや、Youtubeにアクセスし、彼の生放送での製作を見ることや、質問などができます。彼の過去の配信はこちらから。

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