ZBrush User Interview

マックスファクトリー 「シャイニングウィザード@沢近」 

 

ブラック★ロックシューター HxxG Edition.

©ブラック★ロックシューターIllustration by HxxG

このインタビューについて

今回インタビューを行わせていただきますのは、マックスファクトリーでフィギュア原型師として活躍し、長年のアナログ経験を経てデジタル原型へ移行したベテラン、シャイニングウィザード@沢近さんです! 今回はマックスファクトリー様より発売されるブラック★ロックシューター HxxG Edition.のフィギュア制作を担当しているということで、詳細をお伺いしたいと思います!

インタビューをお受けいただきありがとうございます!

もしよろしければ自己紹介をお願いします。

シャイニングウィザード@沢近

略歴ですが

小学生の頃 YMOとホビージャパンに出会い、以降テクノとガレージキットに傾倒する。
1997年 原型製作を開始
1999年 アマチュアディーラーとしてワンダーフェスティバル初参加
2008年 株式会社マックスファクトリー所属原型師となる

という感じです。

セブンスドラゴン2020 サイキック (ピンクハーレー)
2013年(はじめてZBrushで制作した原型データ)

初音ミク mebae Ver.
2015年

今回原型を担当された作品の紹介をお願いいたします。

企画担当者:

2007年に誕生した「ブラック★ロックシューター」を人気イラストレーター・HxxG氏が新たに描いたイラストをもとに立体化しました。
今回はイラストの印象もあり「過去から現在、未来へと駆け抜けて光を目指すB★RS」というイメージで構成しています。
大きな★Rock Cannonと崩れ行く瓦礫、繊細ながら力強さを感じる身体と炎、無機物と有機物が美しくひとつの造形物のなかにおさまる壮大なフィギュアです。

沢近さんはハイクオリティな美少女フィギュアで有名ですが、普段どのように制作しているのでしょうか?大まかな工程を紹介できますか?

シャイニングウィザード@沢近:

最近ですとスタートは主に3パターンあって、

    1. インダストリアルクレイで造った体幹(ポージングした素体)を3Dスキャン → ZBrushにインポートする
    2. 素体ソフトで体幹(ポージングした素体)を作り → ZBrushにインポート
    3. ZBrush上で球をDynameshして素体を作る

この3パターンは上から重要度が高くなっていて、

1はデッサン力を要する時
2はスピードを優先している時
3はたまにやらないと人体の構造・概念を忘れますのでオフの日にやります

ZBrushにインポートしてからは、メインはダイナメッシュと各種ブラシで作ります。
ある程度、空間構成や作り込みが進んできたら一度現物確認をします。
LiveBooleanで簡易分割~3Dプリントをしたものをもとに、社内ディレクションを受けたり、手に持ってみたり肉眼で見た時に気持ちいいかどうかの確認をします。

ディレクションを反映し、形状を煮詰める段階でZリメッシャーでクリーンなメッシュにします。アナログで言うと磨きの作業に近いです。
美少女フィギュアはディテールの清潔感を求める傾向にあるので、凹凸ですべて別サブツール化したり、先に作ったダイナメッシュをガイドにZModelerで新規に作り直したりします。それと同時に量産も視野に入れたパーツ分割を考慮しつつ別サブツール化の作業を進めます。

分割はLiveBooleanを活用して非破壊で行います。
非破壊分割で作るのは版元監修等の形状修正に素早く対応するために元の形状を極力残しておきたい為です。

データがFixしたら3Dプリントして磨き作業・嵌合の調整などを行い原型納品するところまでが自分の仕事です。
これらの手作業も時間があればできるだけ自分でやります。

今回の「ブラック★ロックシューター HxxG Edition.」を制作するにあたり、自分の持つ肉体表現の壁を超えたかったので、人体構造の知識が豊富な「片桐裕司彫刻セミナー」でラフを制作し、データ原型に取り込むという作業をしました。

LiveBoolean : リアルタイムでメッシュ同士をくっつけたり、削ったりというブーリアン演算をできるZBrushの機能。造形の勘合を確認しながら調整できる。元の形状を失うことなく、非破壊で調整できるのがメリットとなる。

ダイナメッシュ : ポリゴンの流れを気にすることなく、造形に集中し、ポリゴンの密度を均一に更新できるという機能。

ZModeler : ZBrush内でポリゴンの押し出しや頂点の結合などのポリゴンモデリング操作を可能とするブラシ。

1.片桐裕司彫刻セミナーで制作した体幹

2.体幹は基本変わっていない

3.ラフ形状の作成

4.周辺のアイテムを作成

5.形状のリファイン

6.土台のディテール調整

7.パーツ分割

8.お気に入りアングル

沢近さんはアナログでのフィギュア制作歴が長いと思うのですが、いつ頃からZBrushを使用するようになりましたか?また、デジタルを始めるきっかけは何だったのでしょうか?

シャイニングウィザード@沢近:

2013年ごろだったかと思います。バージョンは4R6~7でした。
きっかけは月並みなんですが、会社で3Dを導入していこうという動きがあったからですね。

ZBrush 4R6では主要な新機能として、Zリメッシャーが追加され、4R7ではZModelerの機能が実装された頃です。
日本国内でも3Dプリンターブームで、デジタル原型に注目の集まった頃でもありました。

社内でのデジタル/アナログの使用率はどの程度でしょうか?

シャイニングウィザード@沢近:

2021年現在ですと、デジタル 90 / アナログ 10 くらいかと思います。

作業環境

モニターアームで、手作業へスムーズに移行できる

アナログの魅力、デジタルの魅力はそれぞれいいところがあると思いますが、沢近さんはどうお考えでしょうか?

シャイニングウィザード@沢近:

3D造形とうまく付き合えるようになる前は、それぞれに魅力や違いがあるのかなーと思っていましたが、
ある程度できるようになった現在は、自分のなかでその境界がなくなったので正直よくわからなくなりましたね。

途中、仮出力で造形を確認

出力機は、Form2を使用

ZBrushを触った時の初めての印象はどのようなものでしたか?

シャイニングウィザード@沢近:

ZBrush製作者がアナログの思考プロセスを再現しようとしているのかなという印象です。はじめのうちはBLESTARのDVDを見ながらダイナメッシュ、マスク、クリップカーブ、トランスポーズライン。ブラシはStandardブラシ、TrimDynamicブラシ、Smoothブラシで作っていました。

優れたインターフェイスと概念設計によって、限られた機能でも工夫次第でクオリティーの高いものが作れるというのはアナログと同じ感覚だと思います。

分割に不都合がないか確認

想定通りにきちんと組めると楽しい

今回の作品でこだわったポイントを3点紹介していただけますか?

シャイニングウィザード@沢近:

こだわりというわけではないんですが

  1. コートの表現
    (キメカットと上記工程の8.お気に入りアングルの両方を想像しつつ)
  2. 左脚にくっつけて浮いてるように見える瓦礫
    (支柱は取り外せるようになっています)
  3. 炎のエフェクトを立体化に際して元絵の解釈と変更を注力しました。
    (不定形物を作ったことがなかったので模索しましたね)

この状態で一度、版元監修へ

炎は最も複雑な分割になっている

デジタルでの原型製作(ZBrushでのモデリング~分割作業まで)を行うのにどの程度の日数がかかりましたか?

シャイニングウィザード@沢近:

ざっくりですが7時間×月20営業日×4ヶ月位かと思います。

ですが、常に脳の片隅で原型のことを考えていたりするので、そういった時間も含めると起きている間はずっと造形しているようなものだと思います。

デコマスでの重量対策として変形ダボにしている

嵌合のクリアランス調整

アナログ製作に比べてデジタルでの制作作業時間は短くなりましたか?

それとも、時間は同じとし、クオリティアップを目指しますか?

シャイニングウィザード@沢近:

制作作業時間は短くなっていますし、単位時間あたりのクオリティも上がっています。

アナログで作ると今作のようなアクロバティックな構成は重力と時間の影響を受けますが、デジタルだと物理的な制約を受けずに制作することができます。
また、分割やハードサーフェイスの部分は、単純にアナログより精度が上がるので必然的にクオリティも上がっています。

例えばアナログで100時間かかる原型が、デジタルだと50時間で作れるようになりました。
ただ、デジタルの50時間は、前述の分割などを考慮するとアナログの200時間に相当するくらい価値がある-クオリティに直結すると思っています。

磨き・嵌合 作業中

磨きが終わり、納品手前の状態

ZBrushを始める前と、操作に慣れ、実際に作品を作れるようになり、変わったと思うことはありますか?

シャイニングウィザード@沢近:

3Dに移行するにあたり初めは抵抗がありました。

2013年頃の自分はアナログの制作技術が理想的な状態に近づきつつある状態だったんですね。それをもう少し突き詰めたかったです。

制作に対する考え方をまた3Dで一から構築し直したわけなんですが、環境変化への対応力が身に付いて自信がつきましたね。

実作業でいうと仕事の幅が広がりました。具体的には、今作と並行して3Dスキャンした人物データを清書したり、シルバーアクセサリーの原型を制作したりと、並行していくつものプロジェクトにかかわることができるようになりました。

3Dスキャンの清書
PLAMAX マフィア梶田

 

シルバーアクセサリー原型
メイドインアビス白笛ネックレス

原型制作中、普段、打ち合わせや、進捗確認はどのタイミングで行いますか?

シャイニングウィザード@沢近:

企画側とは初めに商品のコンセプト確認とスケジュール確認をして、あとは任せてもらうという感じです。
製作中は方向性のすり合わせをするくらいですね。

製作側では5、6年前はディレクターと毎日やり取りをしていましたが、今はだいぶ減って1プロジェクトで3、4回位かな?
客観的な視点やアイディアが欲しいときにディレクションを受ける感じです。

商業原型の製作では、実際の金型で量産されることを前提にパーツの分割が行われると思うのですが、どの段階で検討を行いますか?特に考慮している点などはありますか?

シャイニングウィザード@沢近:

イラストを見たり、制作の初期段階で検討はつけています。

製作していくうちに物理的に高度な分割を要する場所や、このテーパーは金型から取り出せるだろうか等、不安要素があればその都度ディレクターや製造担当者に確認を取るようにしています。

後でやり直しのほうが嫌ですからね。

また、3D原型に移行してアナログ時代に比べてテクスチャー表現や精度の制約が無くなってしまった分、3D原型で出来てしまうことと量産の限界とのバランスを考える時代になったと感じています。

量産で再現できるものを考慮して制作するようにしています。

どのようなブラシを普段お使いですか?お気に入りの5つのブラシはありますか?

シャイニングウィザード@沢近:

  1. ClayBuildUpブラシ
  2. Moveブラシ
  3. Smooth ブラシ(ウェイト付きスムースモード4)
  4. TrimDynamicブラシ
  5. Standardブラシ

です。

作品制作中にカスタムブラシなどは作りますか?

シャイニングウィザード@沢近:

    IMMやVDMブラシはプロジェクトごとに必要があれば作ります。

    例えばクライマリアという商品では繊細なファーの表現をするためにVDMブラシの作り方を勉強しました。

    機能面もそうですが、表現したいことが自分の知識に足りない時や時間短縮を図りたいときなどになにか方法がないか調べますね。

    どのようなZBrush機能を使いますか?好みの機能などはありますか?
    作業に不可欠な機能などがあればぜひ

    シャイニングウィザード@沢近:

      必要不可欠といえばダイナメッシュとZリメッシャーと全て投影とパネルループですね。

      沢近さんの作品は髪の毛の曲線美とキャラクターのダイナミックな動きが大変魅力的だと感じますが、どのようなこだわりを持って制作していますか?

      シャイニングウィザード@沢近:

        なんというか、気持ちのいい状態・形・比率という概念があると思っていて、「こうでなくては」という状態にしているつもりです。

        一般的に言われる「こだわり」ではなくて、いままで自分が「良いな」と思うものを学び、取り込んできたもののストックのなかから、気持ちのいい形状を取り出して制作している感じです。

        また、動きの緩急を表現する上で使用している、参考にしている資料などはございますか?

        シャイニングウィザード@沢近:

        自分が今まで見て感情を揺さぶられたものすべてに影響を受けていると思いますが

        動きの緩急という点だとアニメーターの大張さんが作画されたものや、ガイナックス作品のダイナミックな動と静に影響を受けていると思います。

        他に参考になるのは書道のトメ・ハネ・ハラエ の概念でしょうか。

          沢近さんはイラストレーターや作品に合わせてテイストを大きく変更していますが、どのように実現していますか?

          シャイニングウィザード@沢近:

          商業原型師の観点でいうと、求められる能力の一つに絵に似せれるかどうかというものがあります。
          これは時代に左右されない普遍的な能力なので、自身の引き出しのひとつとして持っていると強い武器になると思います。
          仕事としてあたる時は、自分に引き寄せるというよりは、クリエイターのテイストに寄り添うという意識で仕事していますね。

          個人的にはひねくれモノなので、自分の作風やイメージを固定したくない、お客さんをびっくりさせたいというのがありますね。

            おすすめの本、サイト、アーティストなどはいますか?

            シャイニングウィザード@沢近:

            若い頃は「装苑」や「VOGUE」を定期購読して読んでいました。
            はじめは服やシワの資料として参考になると思って読んでいましたが、おかげでファッションの面白さにも気づくことができました。
            自分に必要がないと思っている分野ほど、よく見たり調べたりしますね。

            今はサイトやSNS等はほとんど見ていないのですが、本当にいいものはまわりまわって巡り合ったりするのでそれでいいかなと思っています。
            その代わり日常、身の回りにあるすべてのものをよく見ます。
            身の回りのプロダクトはその時代のデザインを象徴する最先端のものだと思っていて、カタチやエッジの処理、使い勝手とデザインのバランスなどを見ています。
            ファッションや、車やバイクなどもそうですよね。そういったものからヒントを得たりもします。

              最近個人的に注目の原型師などはいますか?

              シャイニングウィザード@沢近:

              個人ではないんですけど、同世代・同じ時期にワンフェスに出ていた人たちは同期というかそういう感覚があります。
              そういう人たちが精力的に活動していると負けらんねーなって気になります。

                どのようなモデルを将来的に制作したいですか?

                シャイニングウィザード@沢近:

                人の記憶に残る作品を作りたいと思っています。

                  ZBrushを始めたてのアーティストにアドバイスするとしたらなんでしょうか?

                  シャイニングウィザード@沢近:

                  ZBrushの良いところは、3Dの細かいルールを知らない人でも感覚的に造形できるところにあると思っています。
                  もちろんインターフェイスやショートカットを覚えたり等必須な知識はありますが、
                  あんまり難しいことは考えずに、ダイナメッシュとブラシで好きなように作るのも良いんじゃないかな?

                  そのなかで足りないところやステップアップは、機能を覚えて補っていけばいいんじゃないでしょうか。

                  自分が着手した2013年よりは、解説してくれるサイトやコミュニティも増えたのでだいぶとっつきやすい環境にはなってきていますしね。
                  まずは楽しんで造形してほしいなと思っています。

                    ©ブラック★ロックシューターIllustration by HxxG

                    ブラック★ロックシューターHxxG Edition.のメーカー受注締切は2022年3月9日(水) 21時までとなっております。こちらから予約をお忘れなく!

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