ZBrush User Interview
いっすー

このインタビューについて
ハイクオリティなクリーチャーモデルやファンアートを制作する3Dアーティスト「いっすー」様に作品制作についてお伺いいたしました。いっすー様は複数回ZBrush CentralのTopRowに選ばれたアーティストです。
ZBrushCentral TopRowとは
ZBrush / ZBrushCoreのユーザーフォーラムであるZBrushCentralに投稿された作品の中からPixologicスタッフが選んだ、優秀作品が掲載される欄となっています。
この度は、インタビューを受けていただきありがとうございます!
まず、始めに自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?
いっすー:
インタビューしていただきありがとうございます!
10年程リアルタイムレンダリングを重視した自主制作をやっています。
本職もゲーム系です、宜しくお願いします。
読者の方に、もしよろしければ作品数点を紹介いただけますか?
直近の作品では自分の好きなテイストで作成したクリーチャーの頭と

コラボワークで2Dイラストをミウラマンに描いて貰ったハンドクリーチャーになります。


古い作品は3Dビューワーで実際に閲覧出来るモデルが多いので、Artstationのページで眺めてもらえたら嬉しいです。
いっすー様はリアルタイム向けのハイクオリティなクリーチャーモデルで人気ですが、普段どのような工程でモデルの制作をしていますか?
いっすー :
どのモデルもZSphereからスタートします。Dynamesh化してベースの形状を作り、ZRemesherをかけるという一般的な流れです。
*ZSphere(Zスフィア)
球体同士をつなぎ合わせ、素早く骨格を作ることができる機能です。
*Dynamesh(ダイナメッシュ)
必要に応じてモデル構造の再構築を行い、ほぼ均一なポリゴンサイズで構成されたモデルの作成をすることで、ポリゴンの流れを気にすることなく素早く粘土のように造形が可能となる機能です。
*ZRemesher(Zリメッシャー)
モデルの流れを考慮し、指定のポリゴン数となるようにそれらに最適なポリゴンを再構築する機能です。

いっすー:
ネバネバした膜などもZSphereをガイドにし、ZSketchを使用します。
ZSketchをDynamesh化、ZRemesherをかけ、MoveとSmoothブラシで整えていくだけで短い時間でネバネバした膜が作れます。
入り組んだ触手や血管のような隆起など、ZSketchは自分の作るデータでは様々な場面で活用しています。
*ZSketch(Zスケッチ)
ZSphereの骨格の周りにまとわりつくような球体をつけたりと、大まかな形状を素早く作ることができる機能。

いっすー:
皮膚が引っ張られたようなディティールは、直にスカルプトしていく事がほとんどですが10分くらいで適当にアルファを作り、DragRectで試し貼りしながらベースの流れを確認する事があります。
*アルファ
白黒画像をブラシの形状として利用することで凹凸情報をつけられる機能
*DragRect
ドラッグすることで、真四角の比率でアルファが適用される機能

いっすー:
ここからスカルプトと、ポリペイントを並行して進めていく事が多いです。
中間チェックではBPRとMarmosetToolbagをよく活用します。
BPRでAOの濃さ、影の柔らかさを調整して、通常のビューでは視認しづらい膜の入り組んだAOを確認しています。
*ポリペイント
UV展開などの下準備なく、頂点それぞれに色を塗ることができる機能です。
*BPR
ZBrushに搭載されているレンダリング(描画)機能。
*Marmoset Toolbag
Marmoset社が開発したリアルタイム3Dビュアー
*AO
アンビエントオクルージョンの略。
入り組んだ形状等で環境光が遮られる範囲を計算したもの。


いっすー:
さらにMarmosetToolbagではZBrushの超ハイポリゴン&ポリペイントをそのまま読み込む事が出来るので
SSSとAOのバランスを常に確認しながらスカルプトを修正していきます。
*SSS
サブサーフェススキャッタリングの略。
皮膚の下等で乱反射する光を計算することで、よりリアルな肌の質感を表現できるマテリアル。

いっすー:
この段階でよく見えるとこまで来たら、他ツールでベイクしてテクスチャのブラッシュアップをする流れです。
製作の際には、過去に作成を行った手や顔、耳などのIMMブラシ素材などを利用しますか?
それとも、一から全部作成しますか?
いっすー:
基本的には、ほとんどのモデルを1から作成しています。
ゾンビのような人型は、ZBrushに最初から入っている頭やアナトミーモデルをガイドに使う事もあります。
*IMMブラシ
IMM=インサートマルチメッシュの略。
過去に作ったモデルなどを登録してモデルに差し込んで再利用できる便利なブラシ。
個人で製作しているモデルの1体あたりの製作時間はどの程度でかかるのでしょうか?
いっすー:
平日に毎日2時間、土日は約10時間を継続した場合としてバストアップは1週間、全身キャラは1~2ヶ月が平均だと思います。
放置して2年~3年後に完成した作品もたくさんあります。
自分は複数体の同時並行を基本としているので、例えば時間が1時間あるとしたら、30分は1体目のスカルプト、残り30分で別キャラのスカルプトやリトポを行う事が多いです。モチベの低下と飽きを防ぎつつ、1体の完成時に次キャラをまた0から作り始める際の、億劫な気持ちを解消する事が出来ます。
*リトポ
リトポロジーの略。
ポリゴンの流れをアニメーションであったり、ポリゴン数を削減するため等にモデルのポリゴンを張り直す作業のこと。
ファンアートとして製作を行っているモデルと、オリジナルで製作しているモデル、どちらが好みでしょうか?
いっすー:
ファンアートを作るのが好みです。2010年頃から映画キャラのファンアートをリアルタイムレンダリングで再現する制作を続けてきました。映画のモデルを真似する事でモデリングの勉強になりましたし、当時はまだ珍しかったリアルタイムのSSSなどを使い、どう映画の質感に近づけるか追及するのが楽しかったです。
ここ最近はファンアート以外の制作も以前よりは多くなりました。今後は両方バランスよく作っていきたいなと思っています。
いっすー様がモデル製作でZBrushを利用する理由はどのような内容でしょうか?
いっすー:
ユーザー数が多いので、他の方の造形動画やtipsも参考にしやすいのが大きいと思います。
あとはバージョンアップがずっと無料というのも素晴らしいです、もちろん有料化しても使いますが(笑

初めてZBrushを見た時または利用した時の印象はどのようなものでしたか?
いっすー:
ZBrushの動画を初めて見たのは学生の卒業間近の時期だったので、就職後にこんな時代が来るのかと、ショックを受けました。
初めて触った時は『これでやっとGears of warみたいなノーマルマップを出せる!』といった感じです。
ZBrushを利用する前とあとで自分の製作したモデルの”ここが変わった”と思える点はありますか?
いっすー:
ZBrushより以前は、mayaで超ハイポリゴンを作って、バンプとディスプレイスメントをフォトショで描いてクリーチャーを作っていたので、時間もクオリティも全てが変わったと思います。
好みのブラシはありますか?もしよろしければ好きなブラシTOP5を聞かせてください。
いっすー:
使用頻度が高いのは
1.ClayBuildup
2.Standard
3.inflate
4.Rake
5.Morph
モデルを製作する上でカスタムブラシやVDMブラシなどは作成していますか?
いっすー:
カスタムブラシの作成はしていません。ですがかなり昔にダウンロードしたCreaseブラシだけはずっと使っています。
古すぎてダウンロード先が見つからなかったので、感覚が近いブラシを探しました。
この動画のブラシは、自分が以前ダウンロードした物とほぼ感覚は一緒です。旧SculptrisのCreaseブラシの感覚が好きだったので、それに近い物です。
ZBrushの機能でよく利用する機能や、好みの機能はありますか?
いっすー:
お気に入りは最初の方でも書いたZSketch。あとはMaskingにあるPeaksandValleysとSmoothness。
BPRFiltersでAOの強度やフォグなどを弄って遊ぶのが好きです。
*Peaks and Valleys
マスキングの欄にあるモデルの凹凸情報を利用してマスクを生成する項目です。
*Smoothness
マスキングの欄にあるモデルの曲率からマスクを生成する項目です。
複雑に肉や骨が入り組んだゾンビのようなモデルを多く見受けますが、それらを製作する上でのTipsはありますか?
いっすー:
機能的には最初に説明したZSphereとZSketchとDynameshを繰り返します。皮膚や骨、ネバネバした膜は、最初はそれぞれ別メッシュで作り始めますが、最終的にはDynameshで1メッシュにして、複数の素材が融合して引っ張られている感じを強調させるのが自分の理想です。
ZProjectとmorphブラシでも別素材を部分的にプロジェクションして馴染ませていく作業などをしています。
*ZProjectブラシ
他の表示中のモデルの凹凸情報を選択中のモデルに投影するブラシです。
*Morphブラシ
変形後のモデル情報を、格納したモデル情報に戻すブラシです。ブラシの強さを調整することで、凹凸などの微調整がしやすくなります。

いっすー様のモデルはディテールが多く彫り込まれているものの、全体的な見た目としては非常に見やすく感じるのですが、何か秘訣はありますか?
いっすー:
秘訣と言えるか分かりませんが、自分の場合は皮膚に穴があいたような細かいディティールが多いので、序盤からBPRで、”穴のAO映え”を何度も見て、気をつかってバランス調整しています。
後はポリペイントを塗り始めるのが早いので、序盤から色とSSSとAOがついた状態を確認し、完成に近いイメージを確認しながら直していく作業をしています。

制作したモデルを3Dプリントしたことはありますか?その際の印象はどのようなものでしたか?
いっすー:
以前外部のサービスを使って出力した事があります。実際に見てみると、自分でスカルプトしてた時のイメージと、フィギュアサイズでのパースの見え方を比べるのが楽しかったです。もう1年近く3Dプリンターを買おうか悩み続けている最中です(笑
製作を行う上での下調べや、リファレンスなどはどのように集めていますか?
いっすー:
ファンアートを作る時はMPCやImageEngineのVFXスタジオの動画、ZBrush Summitなどで披露されたキャラのメイキングをたくさんチェックしています。
ゾンビタイプの物を作る時は机の横に置いてあるアナトミーフィギュアを確認したり、youtubeで医療などで使われるような動画などを見る事もあります。
クリーチャーを製作する上で参考にしている書籍や、アーティスト、サイトなどはございますか?
いっすー:
Pixologic inteviewにもあるKevin lanningさんのGEARS OF WARのページです。年代的にはだいぶ古いものになってしまいましたが、今でも一番大好きです。
ArtstationではLuke Starkieさんや、JasonMartinさんのクリーチャーをたくさん見ます。
studioAdiのyoutubeチャンネル”the thing”のクリーチャー造形と、”alien newborn”の造形動画は何百回も再生しました。
oats studiosのショートムービーで使われた実際のクリーチャーアセットが買えます。
クリーチャーではないですがアンチャーテッドやThe Last of Usのモデルを制作しているFrankTzengさんの人間のスカルプト動画もおすすめです。
将来的に作りたいモデルなどはありますか?
いっすー:
最近はアニメーションの欲が強いのでモーフのギミックを駆使したクリーチャーや、シワのブレンドを意識した物を作りたいなと思っています。
ZBrushSummitのパシフィックリムの解説であったProjectMorphを活用したブレンドシェイプの動きが気持ち良いので、それも活かしたいです。
最近遊んでモデルの良かったゲームや、面白かったゲーム、おすすめなゲームなどはありますか?
いっすー:
Last of us Part2とバイオハザードre2&3が、モデルビューワーでキャラを見る事が出来て、クオリティも素晴らしいのでおすすめです。
後は少し古いですが、The order1886のグラフィックと狼男の変形は何度見ても素晴らしいです。
もし、最近ZBrushを始めたばかりの方にアドバイスをできるとしたらどのようなアドバイスしますか?
いっすー:
シンプルに上手な人の動画をたくさん見る事を勧めます。最近はRaf Grassettiさんのチャンネルでライブ配信なども多いので、形状の取り方など見れば勉強になると思います。
ブラシは好みのやつを見つけて、自分自身が必ず作って楽しいと思えるモチーフで、スカルプトを始めてほしいです。
他にお話したいこと/紹介したいTipsなどはございますか?
いっすー:
ただの宣伝ですが、以前行った狼男のセミナーの動画です。今回お話したZBrushの好きな機能やポリペイントに関しても少しだけお話しているので良ければ見てほしいです。ZBrushパートは大体19分頃から。
ZBrushニュースレター
ぜひ私たちの日本語のニュースレターに登録を行い、ZBrushとZBrushCoreに関するチュートリアルや、インタビュー、メイキング、イベントなどの情報を入手しましょう!